ダイアナ・ウィン・ジョーンズ著、野口絵美訳『大魔法使いクレストマンシー クリストファーの魔法の旅』(2001年、徳間書店)


クリストファー・チャントは、幼いときから夢の中で別の世界に自由に移動する能力を身につけていました。それに気づいた伯父が彼を利用するのですが、伯父が大好きなクリストファーはそのことに気づきません。伯父に言われるままに行動しているうちに出会った、伯父の使いだという青年タクロイと、別の世界で神殿に暮らす「女神」と仲良くなります。やがて、クリストファーが9つの命を持つ特別な大魔法使いで、次代のクレストマンシーになる身であると分かり、老クレストマンシー・ゲイブリエルの城に引き取られます。やがて伯父の悪事が老クレストマンシーたちの知るところとなり、タクロイや女神たち、ひいては別の世界も巻き込む大事件になります。クリストファーは、この困難を解決できるのでしょうか……?


先日読んだ『魔法使いはだれだ』に出てくるクレストマンシーが、クレストマンシーになる前の物語。——と書くと何だと思われる人もいるかもしれませんが、クレストマンシーというのは、魔法が正しく使われているかを監視する大魔法使いの称号なのだそうです。これは単なるクリストファーの冒険ではなく、彼自身が魔法使いとしてだけでなく、人間的にも成長する過程を描く物語でもあると思いました。大人の視点から見ると、「ここまできたら、伯父さんの正体に気づいてもいいんじゃないかな」「そんなに頑張ってもしょうがないから、観念すればいいのに」などと思ってしまうところもあるのですが、子どもの視点から見れば共感できるのかもしれません。


クリストファーが主人公なのでしょうがないと言えばしょうがないのですが、タクロイや「女神」の話がもっと書かれていても面白かったかもしれないと思いました。物語を解決するためにひっぱり出してきた設定、というふうに感じられるのが残念です。